71歳にして、大阪芸術大学教授、公益社団法人日本漫画家協会の理事長と、本業以外にも忙し日々を送る里中先生。 仕事をし続けることの意味、おひとりさま女性として、これからの人生をどう考えているのかを聞いてみました。
撮影・取材/Muguet編集部
編集部より
「絵を描くのが好き」がスタートではなく、「マンガを文化にしたい」がマンガ家を目指す源だったとは、驚きです。
今や、マンガは日本を代表する文化のひとつになりました。マンガ家としても、マンガの伝道師としても、きっと天職だったのでしょう。
71歳の里中先生がこんなにパワフルなのだから、アラフィフの我々はもっとがんばらないと!と思わされました。
「何歳からでも没頭できるものは見つかる」という里中先生。ぜひまだ見つけられていない人は、興味のあるものに手を伸ばしてみてください。自分の老後を充実させるのは、自分自身に他なりません。
16歳でマンガ家デビュー。ドラマ化された「アリエスの乙女たち」など、代表作は多数。描いた作品数は2019年時点で500を超える。「歴史もの」も多く、持統天皇が主人公の「天上の虹」(全23巻・文庫版全11巻)は、1983年に連載を開始し、2015年にその物語の幕を閉じる。
「歴史考察好きの方から、お叱りを受けることもあるんです(笑)。それぞれが考える歴史があって、でもそれがおもしろさです」と語ってくれました。
編集部
高校生でマンガ家デビューして、71歳まで仕事を続けていると思ってましたか?
死ぬまで仕事をしたいと最初から思っていました。
結婚できないだろうなと中学生のころから感じていたのと(笑)、マンガ家になりたいと思ったきっかけが「虐げられているマンガを文化にしたい」と思っていたので、それには生きている間では終わらないだろうと思っていたので、死ぬまでだなと。
編集部
虐げられている…「マンガを読むと頭が悪くなる」と言われていた時代だからでしょうか?
そうです。活字を読んだら褒められるのに、マンガを読むと「バカになる」「あそこのうちの子は、マンガなんか読んで」と言われていました。
でもマンガって素晴らしいじゃないですか。自分で描き始めて、マンガなら、ひとりで映画を作れると思いました。絵も、ストーリーもひとりで作り上げていける。
読んでいる人は描かれている登場人物の感情を追いながら、好きな人に感情移入できる、想像力がかきたてられる…。それに、当時人気があった手塚治虫先生のマンガだって、博識じゃないと、とても描けない内容です。
編集部
確かに。
食料や睡眠と違って、マンガや芸能は生命維持には必要ありませんが、人間は感動したときに生きる力が沸いたり、己を律したりできるようになると思うのです。
私も子どものころ、学校のトイレ掃除をさぼりたくてしょうがなかったですが、「アトムだったら絶対に掃除するだろうな」と考えると、さぼれませんでしたから(笑)。
編集部
そうですね。生命維持には必要なくとも、人生を彩るのには必要不可欠です。私も半分以上マンガで育ったところがあると思っています。
里中先生は、マンガを文化に、という目標で今までやってこられたわけですが、今やマンガを描くだけではなく、大阪芸術大学の教授、マンガ家協会の理事長など、何足ものわらじを履かれています。大変ではないですか?
草鞋を履きすぎて、肝心のマンガの締め切りが守れなくて恥ずかしい限りなのですが(苦笑)。
大阪芸術大学は18年前からキャラクター造形学科で教鞭をとっています。昔教育テレビ(現Eテレ)でマンガ講座の講師を担当して、それがすごく楽しかったんです。「あれを観てマンガ家を目指しました」と言われることもあり、その頃から教える楽しみを感じていたので、充実しています。
海賊版への対策であったり、若手作家が出版社との契約で困ることがないように相談窓口を作ったり、「デジタルマンガ協会」というのもやっています。
それぞれ役割が違うんですが…多いですね(笑)。
編集部
そんなに多忙で、丸1日お休みできる日はあるんでしょうか?
私の場合、休みだと思って本を読んでも、それが資料に近いものだったりするので、お休みという感覚は少ないかもしれません。
編集部
お忙しい毎日ですが、体調管理などはどのように気を付けていますか?
すぐ病院に行くようになりました。もっと若いころは、本当に動けなくなるくらいまで、病院に行きたくない、行かない人間でしたが、今はこまめに検査をしてもらうようにしています。
何事も健康には変えられませんから。
編集部
お仕事を離れた、プライベートの楽しみはありますか?たとえば美術館に足を運んでも、仕事と繋がってしまいそうですが…。
私は子どもがいないのですが、妹の孫が2人いてその子たちの成長が楽しみです。60歳から始めた趣味のアクセサリー作りも続けています。でも、なんだかんだと仕事が楽しいので、そこまで「仕事から離れたい」というときもないのが幸せなのかなと思っています。
編集部
里中先生と同世代で、定年退職して趣味がないような人も、多かれ少なかれいらっしゃる中で、充実していますよね。
趣味がない人の多くは、「自分には今からできない」「無理」と思っていらっしゃる場合もあるんじゃないかなと思います。
大学の入学式で、最近は保護者の方も参加されることが多いのですが、たまに「私も昔はマンガ家を目指していたんです」っておっしゃる方がいるんです。そのたびに「今からでも始められますよ」と言ってます。マンガは、何歳からでも始められますから。今はSNSなど、発表する場にも事欠きませんし。
たとえば発掘現場に行くと、いつもいるような定年後の方とかいらっしゃいますし(笑)。
編集部
マンガも、発掘もいい老後の趣味ですね!里中先生は、今後どんな老後を過ごしていきたいですか?
おひとりさまでもそうじゃなくても、結局は個々の人生で、それぞれのタイミングや転機で覚悟が必要なのは一緒です。自分の選択をしてこれたか、してきているかで、人生の満足感が変わると私は思っています。
そういう意味でも、自分で選び取っていきたいですね。